鉄の塊を投げるング。胸騒ぎのライトショアジギング。
2018/11/08
未知なる趣味の世界に足を踏み入れる時、洗礼のように、意味不明な専門用語の放流に打ちのめされる。
予習もなしに釣具店に足を踏み入れると、まさに異世界である。
全体的に「釣具」がひしめく空間であることはわかるのだが、それぞれの道具がなんなのか、さっぱりわからない。
店内はジャンルごとに棚が分かれており、看板やPOPでそれぞれのカテゴリ名が記載されている。
「アジング・メバリングコーナー」
「エギングコーナー」
「ライトショアジギングコーナー」
なんのことだ?
全部「ング」がついているのはなぜだ?
どうやら、鯵(アジ)を専用の道具で釣る方法を「アジング」というらしい。メバルの場合は「メバリング」というそうだ。
アジを釣るからアジング。
メバルを釣るからメバリング。
安直なネーミングだが、意味はわかる。筋は通っている。
問題は「エギング」だ。
聞けば、エギングとはイカを釣る方法らしい。
ちょい、そこは「イカング」じゃねぇのかよ。
「エギ」というのは漢字で「餌木」と書く。調べてみると、餌木は日本古来から伝わるイカを釣るためのルアーだそうだ。ルアーというのは魚たちが食べる餌を模して作った、いわゆるイミテーションである。それに騙されて獲物が食いつくのだ。イカの場合はその餌木に「抱きつく」らしい。
▼これが餌木。昔のプロトタイプだって。渋い。

▼これが現代のエギ。なんかチャラい。

まあいい。
ともかく、私が言いたいのはこういうことだ。
私は一体、
「何ング」なのだろうか?
「すみません、私、釣りの初心者なんですけど、何ングからすればいいのでしょうかね?」
と、上州屋の若い店員に聞いてみる。
「何を釣りたいか、によりますね。」
そう来たか。突き放すタイプか。
しかし、たしかにこの店員の言うこともわからんでもない。私が釣りたい魚はなんなのか?そうだな、大きくて、食べて美味しいやつがいいな。サバ、かな?
私「サバとか釣りたいっすね。サバング?」
上州屋「サバング?ていうのは無いですね。」
私「ですよねー。」
おっさんに恥をかかすなよ上州屋。
上州屋「サバとかサワラとか青物を釣るなら…」
私「ちょ待てよ!アオモノってなに?」
上州屋「あー、お寿司屋さんで言うヒカリモノですかね、イワシとか。」
私「へぇー、で、釣るなら?」
上州屋「青物釣るなら、ライトショアジギングとか手軽ですよ。餌もいりませんから。」
私「ライトショ…、それって餌いらないの?じゃあ、なにで釣るング?」
上州屋「メタルジグっていう、金属で出来たルアーです。こういうやつですね。」

おお、ライト・ショア・ジギング。
私はこの鉄の塊でサバを釣るのか!
ライト!ショア!ジギング!
「ライトショアジギング、ライトショアジギング…」
忘れないように、ブツブツとつぶやきながら家に帰る。新しくて覚えにくい言葉を知った喜び。こんなの高校生以来だ。高校1年生のときに『イングヴェイ・マルムスティーン』を知った時のようだ。
▼イングヴェイ・マルムスティーン

すみません。
イングヴェイ・マルムスティーンのことは、一回忘れてください。
新しく覚えた言葉は早く使いたい。
「え?このサバ?ライトショアジギングですけど。」
とか、早く誰かに言いたい。
ともあれ、私は取っ掛かりを手に入れた。
ライトショアジギングという入口から、私は釣りの世界に分け入ってゆくことになる。
待っていろ、海の神ポセイドンよ。あと、活きのいいサバたちよ。