私のリモートワークと猫ディスタンス

2021/01/23 リモートワーク
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リモートワークになり、半年以上経つ。
日がな一日、自宅の寝室兼仕事部屋に閉じこもる生活が続いている。

幸い、私の部屋は陽当たりも悪くないし、住まいも地方の一軒家なので、そこそこ広くて、エコノミー症候群的に息の詰まるようなストレスは無く過ごせている。

もうかれこれ15年もWEBマーケティングの仕事をしているのだけれど、私はこの仕事に就こうと思った時から、このような「どこにいても仕事ができる日々」にあこがれ続けてきた。
満員電車に詰め込まれることもなく、用もないのに気に入らない上司や同僚と顔を合わせる必要もない日々だ。
幸い、いま勤めている会社は、上司や同僚にも恵まれて仲もいいので、人間関係の面では、リモートじゃなくてもストレスは無いし、電車や地下鉄やバスではなく、自家用車での通勤なので、満員電車のストレスは全く無い。そういった面では、リモートワークの働き方に転じたところで、ストレスの開放のインパクトは少ないかもしれない。

家にずっといる。

仕事用のデスクには、PCの画面を映す3面のディスプレイ。
コーヒーカップとカレンダー。使わなくなった名刺と名刺入れ。

デスクに着くと、右手には明るい窓。住宅地なので向かいの家の2階の窓が見える。
その向かいの家の2階の窓にはいつも、その家の飼い猫が座り、私と同じように、サッシの内側から窓の外を見ている。
なんという品種の猫だろうか?グレーでトラ縞の痩せた猫だ。メス猫かな、オス猫かな。人間の歳ならいくつくらいだろう?

私たちは、ほとんど毎日に窓越しに顔を合わせる。

「やあ、今日も家で仕事かい?」
「まあね。こういうの、リモートワークっていうんだぜ。」

かつて、会社の喫煙所で毎日会うことで世間話をするようになった、名前も知らない他部署の社員のような人々は、リモートワークの導入に伴って、私の生活からいなくなってしまったが、今はあの向かいの家の飼い猫がその代わりのような存在になっている。

私は猫アレルギーなので、至近距離の猫は苦手だ。目がかゆくなったり、くしゃみが止まらなくなったりして非常に厄介だ。
私はわかっている。猫は何も悪くない。猫の存在が害悪だとも思っていない。
ただ、私の体質が彼らを抱いたり撫でまわしたりすることを拒絶している、という不幸があるだけだ。

「じゃあ、明日も明後日も、会社に行かなくてもいいの?」
「そうだよ、リモートワークだからな。」

私の一方的な言い分で恐縮ではあるが、あの猫と私との距離感は、このくらいの距離感が適切だ。
抱いたり、撫でまわしたり、ペロペロされたりすることは望まないし、そもそもそれが私にとってはダメージだから。

職場、学校、家族、友人関係や恋愛関係、そのほかの名前がついていないあらゆる人間関係性において、個別に快適な距離感というものがあるし、それは大切にするべきだ。
豊かさとは何だろう?きっとそれは物やお金を所有することではなく、コミュニケーションの「快適さ」を優先する自由を得ることだ。

夕方、窓の外は暗くなり、向かいの家の2階の明かりがつく。飼い主が帰ってきたみたいだ。

「そろそろ行くよ、今日はまだ仕事あるの?」
「もうちょっとね。おつかれさま。」

窓辺でこちらを見ていた猫の影はぴょんと部屋の奥に消え、窓枠からフレームアウト。やがて、ディスプレイの電源が切られるように部屋の明かりも消えた。

今頃、飼い主に撫でまわされながら、チャオチュールでも舐めてんだろうな、とか思いながら、今日も少しだけ残業。

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