コーディングもサーバ構築もなしでWEBサイトが作れる「
STUDIO」というサービスを使って作られてるという。
WEB制作会社に勤めている私も、以前から知ってはいたけど使ってはいなかったという事もあって、とても興味を持ちました。
たしか、犬飼はグラフィックデザイナーなので、WEBのコード書いたりするのは専門外だったと思う。なのにこういうモーションやアニメーションをふんだんに使って遊んでる、楽しげなWEBサイトが現れたという事に、おいおい、どういうことだ?と驚いたのが最初の感想でした。
というわけで、すぐに犬飼に直接電話したのでした。なんだあれは、と。
私は企業や店舗、行政機関のWEBサイトを制作したり、プロモーションをしたりする、WEBマーケティング会社に勤めています。バナー制作みたいなデザイン仕事からスタートして、WEBサイトデザイン、制作ディレクション、企画、プロモーション、データ解析、マーケにコンサル、営業提案など、割と幅広く「WEB」に関する仕事をさせてもらっています。
WEB上のマーケティングやプロモーションに限って言えば、一通りの工程や各セクションの実務はわかっているつもりだし、現場経験もある程度はあるので、マジで予算や時間が無い時は一人で全部やっちゃったりすることもあります。
いわゆる「WEB関連」の仕事に就いてかれこれ15年くらい経ちますが、なんというかこの業界は諸行無常ってやつでして、それこそ10年前に流行ってて、修得した新しい技術も今では全く使われなくなるなんてことはザラで、例えばそれはFLASHだったり、AJAXだったり、ガラケー仕様の構築だったりとまあ色々です。デザインやインターフェイスのトレンドもすぐ変わる。デバイスも変わる、セキュリティのポリシーも変わる。新しいSNSもどんどん生まれる。とにかく変化のスピードが速い業界です。
スクール行って手に職付けてハイ安心、とか、資格をとればOK、とか、そういうの全然ない。まあ、今はどの業種もそうかもしれないですけどね。
まだほんの少数の人しかできないような、新規性が高くて珍しい技術は価値が高い。しかし、それが誰でも割と簡単にできるようなると、その価値は下がってきて、コモディティ化(市場価値の低下)してくる。つまり、高く売れていた技術が、安くリーズナブルになってくる。
業界も世代も異なるので詳しくはわからないけど、きっとMacが普及し始めたころ、グラフィックデザインの業界や印刷業界において、既存の技術のコモディティ化が起こり、今まで食えてた職人さんが食い詰める。さらに世間のIT化が進むにつれ、メディアや通信の業界にも同様に、生態系の大きな変化が起こってきたのだと思う。今もなおそうだろうし、これからもそう。きっと今までもずっとそう。
ウェブサイトを作る際、どんな色・形・レイアウトに組むかを設計するのがデザイナーの仕事。そのデザインができたら次は何か?「コーディング」という工程になります。専門の言語を用いて、いわば「静止しているデザイン」に動きを与え、インターネットブラウザ上でユーザーが動かせるように構築するのです。
家づくりで例えると、建築デザイナーに対する工務店のようなセクションっていうと何となくわかるでしょうかね?
もうちょっと言うと、建てる家の基礎を作ったり電気の配線や水道の配管などのインフラを構築するのが、システムエンジニアと呼ばれるセクションだったりします。
家の図面を設計し、外観や内装をデザインし、基礎を作って、施工が始まる。
WEBサイトもこれに似ていて、サイトの設計をし、デザインをし、サーバやドメインやセキュリティ周りの仕様を固めて構築環境を作り、コーディングして仕上げる。
リレーのバトンを渡すようにして、各工程のランナーがそれぞれの区間を走り継いでゴールを目指す。
さて、コーディングもサーバ構築もなしでWEBサイトが作れる「STUDIO」というサービス。
私も実際に使ってみましたが、率直な感想は「楽しい」でした。
便利とか簡単、っていうのは当然そうなんですが、その簡便性がもたらす感覚は「楽しい」だったのです。
冒頭の犬飼の話に戻ります。
職業柄っていうわけじゃないんですが、犬飼に電話して「あのサイトすごくいいね」というざっくりした感想を伝えたあと、私が彼に尋ねたことは「ああいうのって、いくらくらいでやれんの?」っていう、いわゆる見積を聞こうとしたわけです。
その後、このSTUDIOの事の他にも、いろいろお互いの仕事のことを話したんですが、私は、あれは稼げるとかあれは稼げないとか、ついつい、そういった「銭」の話をしていました。
べつに商売の話が卑しいとは思いませんし、好きな事をやりながらもお金を稼げるってのはとても都合の良い事だと思っています。この世で生きるための燃料、お金はガソリンだから。
話の中で、犬飼は「とにかく、たのしいことを優先したい」とか「お金は入るかもだけど、そういうのはワクワクしないっすね」とか、その時の私からしたら、ヘイヘイ、青いぜ、まだまだピュアボーイだな。っていう感じで、なんていうか、キッズ・リターンの安藤政信に対するモロ師岡みたいな感じというか、そういうスレた先輩みたいな受け答えだったなと思います。
で、その後、彼に影響されてSTUDIOをいじくりながら考え込むわけですよ。2週間。
その間、仕事仲間にもSTUDIOを勧めて使ってもらって感想を聞いたり、OYOGEのサイトを見てもらったりしました。みんな口をそろえて「いいね、たのしい」って言います。私もそう思う。
カッコよさを知った
美しさを知った
面白さを知った
こういう経験って、クリエイターにとっては「洗礼」のようなものだと思います。
で、その時に得た感覚を再現することの「たのしさ」を知った人が、クリエイターになるんだと思います。
あのカッコよさの再現、面白さの再現、美しさの再現。
あの素晴らしい愛をもう一度。
クリエイターのたのしい気持ち、それは作ったものから出ちゃうもの。
それが仕事であれ趣味であれ、それは出ちゃう。
クリエイションの「たのしい」は、クライアントにユーザーにもきっと伝わるから、その作る過程をたのしめる環境というのは、クリエイターにとっては非常に大切だと思う。
私は好きでWEBの仕事に就いて、今もうまい事続けられていて、充実も興奮も、徒労も遺憾も経験しているけど、やっぱ仕事はクライアントのために尽くすから「仕事」になるわけで、私自身の躁や鬱はクライアントやその向こうにいるエンドユーザーには全く関係が無い。仕事にセンスとか才能もいらないし、正しくマーケティングができて、ディレクションが出来ればあとはコスト計算だから、ある程度失敗しない方法は、そのプロセスをレシピ化できると思っていますし、実際そうやっています。
しかしですね、今回のこのことがあってですね、「たのしい」ってのは、なんか結構大事だな、って思ったのです。
STUDIOの導入によって、WEBサイトの制作はコーディングやバックエンドの構築作業をスキップできるし、時間もお金といったコストの配分も全然変わってきます。そういう点ではメリットは大きいと思います。
実際に使ってみて思うのは、普通にコードを書いたりできる人にとっては、書いちゃったほうが早いしもっと自由にできるので、窮屈に感じるってのはあると思う。
しかし、そんなことより、WEB以外のジャンルのデザイナーやクリエイターが、自由にサイト構築を最後までできる手段がある事のほうが、よほどインパクトが大きいと思います。
犬飼が作ったOYOGEのサイトって、「あれって、一体どうやったの?」っていう驚きと工夫があって、きっとかなりSTUDIOをいじって遊んだんだろうな、と思いました。
STUDIOに限らず、あらゆる「道具」は使う人の創造性を左右する。
そういう意味で、このOYOGEのWEBサイトは、道具と使う人との「たのしい関係」が出てるなと思いました。
その結果、きっとクライアントさんもお客さんにも、「たのしい」が伝わっていると思います。
小学生の私の娘もOYOGEのサイトを見て、
「アサリかわいい。通販ないの?」って言ってました。
ショッピングサイトができるのを、待っています。
私も、もうちょっと素直に、たのしくものづくりをしたいな、と思いました。
苦しい犠牲の上に尊く美しい花が咲く、っていうの、あれ嘘だぜ。
おわり。