若林のキューバのやつとコンビニ人間、そしてイデオロギーと同い年のこと。
テレ東の「あちこちオードリー」が凄く好きで、なんでこんなに面白いんだろうか?という疑問があって、それで、オードリー若林ってどういう人なんだろうという興味から、彼の著作を読んでみたいと思ったのがきっかけだ。あと、オードリーが私と同い年という事もある。私と同い年の表現者って今どんなことを考えてるんだろ、という興味もあった。多様性の時代、自分と「年齢が同じ」というのは、他人に対して興味を持つうえで結構強いフックになっていると思う。
で、「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」の概要。
オードリー若林は、社会情勢や歴史に疎いという問題意識から、家庭教師を雇って色々と世の中について勉強をしていた。彼はかねてから今の日本で生きるうえで競争をさせられている違和感を持っていた。売れない時期に参加した同窓会で蔑まれたり、逆に売れっ子になったらなったで疎まれたりした。このような経験から、この生きにくさって何なんだろうという疑問を持っていた。勝ち組とか負け組とか、一体何なんだと。
ある時、家庭教師に「資本主義」や「新自由主義」といった社会のイデオロギーについて教えてもらったことがきっかけで、じゃあ、休みが取れたからこの日本とは別の仕組みで動いている国に行ってみよう、という事になり、社会主義国である「キューバ」に旅立つことになる。この本はそこで体験した事を綴ったみずみずしいエッセイである。
これ、結構面白かった。
いま自分がどういう環境で生きているのかという事を、外に出て客観的にとらえなおす、感じなおす旅だ。なるほど「旅」っていうのはこういうことかもしれないと思った。
以前、何かビジネス本か自己啓発本かなんかで読んだんだけど、自分が慣れている環境を「コンフォートゾーン」って言うらしいんだけど、人間が成長するにはその「コンフォートゾーン」から逸脱することが必要なんだ。っていうのを思い出す。
新自由主義の環境から抜け出して、社会主義国を覗き見て、1週間もしないうちに帰国。
若林の旅の、このコンパクトさが結構いい。
最後は「また灰色の戦場に戻ってきた」みたいなしめくくりで終わるのだが、なにかこれまでとは違うほんの少しの希望のようなものを感じさせる読後感ではあった。
この本の前半。飛行機でキューバに向かう上空、若林は機内で村田紗耶香の「コンビニ人間」を読む。芥川賞を受賞して大ベストセラーになっている短い小説だ。これを読んだ若林は衝撃を受ける。キューバに到着する前にだ。
これまで、コンビニで働く人間は、そこから抜け出そうともがく存在として物語に登場していたが、この「コンビニ人間」には、コンビニで働くことで救われる主人公が登場する。
この主人公の生き方は、新自由主義や資本主義をサバイブする新しい生き方なんじゃないか、と、若林は思う。競争社会で勝ち抜くことがもはやダサいことになりつつあるのではないか、とも語っている。
「コンビニ人間」を書いた村田紗耶香も私と1歳違いの同世代だったと思う。これは読んでみたい。
ほとんど同い年の芥川賞作家が何を書いているのか? すぐ買った。で、すぐ読んだ。
「コンビニ人間」。すごく売れてるみたいなので読んだ人も多いと思うけど、これはとても面白い小説。私も衝撃を受けた。 村田沙耶香。きっとこの人は、いまの社会常識や慣例、あたりまえとされている価値観に対して至極素直に「なんでだろう」とまっすぐに疑問を持つ事ができる人なんだろうなと思った。
コンビニ人間の主人公は、簡単に言うと情緒や常識を欠いたサイコパスとして描かれているが、言いかえると、あたりまえとされている価値観に染まっていない「異星人」のような者であり、だからこそ純度100%の「なんで?」という問いを発する事ができるキャラクターである。
そんな人物から見たこの社会は不合理で不可思議なものなのだが、そんな中でコンビニエンスストアという構造物が極めて合理的でシステマチックな環境に描かれる。主人公は自分がそのコンビニを稼働させる一つの歯車として機能する事にアイデンティティを見出す、っていうお話。
どうでしょうか。
ちょっと前に、ハーマン・メルヴィルの「書写人バートルビー」という小説を読んだって事もあり、資本主義社会における人間のあり方、みたいなテーマには関心があったので、その流れで「コンビニ人間」も「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」が読めて良かった。
資本主義や新自由主義、社会主義や共産主義といったイデオロギーというのは、言ってみれば神様のいない宗教のようなものなんじゃないかと思うのだけれど、まだまだ勉強不足なのでもうちょっといろいろと調べてみたい。