朝の優れたなぞなぞと、夜の相棒クイズのこと
何か言いたいかというと。「誰もが知っている国民的〇〇」というものがもし今あったとしても、それのことを私が全く存じ上げない、というケースなんて全然ある、あり得る。それは例えば、「相棒」だ。わたしは「相棒」を観たことが無い。
「食べるとケンカをしない豆腐ってなーんだ?」と娘。オリジナルのなぞなぞだ。
「んー、なかよし豆腐?なかよし豆腐でファイナルアンサー。」と雑に答える私。
これは、昨日の朝食の時に交わした娘との会話だ。子供が考えたオリジナルなぞなぞというやつには「クオリティ」というチェック項目は無い。なぞなぞというは日本語の音と意味を繰り、その問いの答えが明かされたときは、目の前がパァと明るく広がるような、いわゆるアハ体験が展開されるものだ。そういうものが「優れたなぞなぞ」である。
たとえば、動物が三匹、亀とらくだとサイが街に出てきてお買い物。何を買いに来た?「亀らくだサイ」→「かめらください」→「カメラ下さい!」。なるほど!アハ!、という具合である。こういうのがなぞなぞっぽいわけで、こういう構造の出題が子供から出てくるとは思っていない私は「はいはい、なかよし豆腐、なかよし豆腐だろ」という適当な態度。
「ブー。木綿豆腐。」と娘。
木綿、もめん、揉めん。
揉めん豆腐!!
目の前がパァと明るく広がった。優れたなぞなぞである。
やるじゃないですか。舐めた態度ですいませんでした。
朝食でこのなぞなぞを聞いたその日の午後、日中は粛々と仕事をしながら、
「揉めん豆腐、か。」
と、思い出して反芻しては、声に出してつぶやいたりもしてた。なぜだか嬉しいような、誇らしいような気分になっていた。我が子の成長を慈しむ感情というのはこういう気分なのだろうか。
「相棒クイズやる?」
妻からそう切り出されたのはその日の夕食の時だった。
新型コロナきっかけのリモートワークスタイルの我が家は、直近2年間は朝と晩は基本的に家族そろって食事ができるようになっている。ちょっと前まではこのような食卓は我が家の日常風景の中にはなかった。リモートワークがもたらした家族の食卓である。このような食卓は、ひょっとしたら「一般的な日本の日常風景」とはいえないものに、だんだんなっているのかもしれないし、だからと言ってそれを私が憂う事も別にない。多種多様にみんなそれぞれ飯を喰っている世界。喰える物を喰える時に喰える環境で喰っている。
「相棒クイズ?ドラマのやつ?」と私。
「そうそう。やる?相棒クイズ?」と妻。
私は今朝の「木綿豆腐」を思い出していた。
やりたい。オリジナルクイズだ。娘のオリジナルなぞなぞに続き、妻のオリジナルクイズだ。やるよ。
「はい、なんとこの度、水谷豊の相棒がまた変わります。さて、誰になったでしょうか?」と妻。
芸能ニュースからの出題だった。
私というものを、どうでもいいニッチな雑学と受け売りの仕事術のような退屈な情報しか持っていない人間だという事を、妻はよく知っている。確かに私は「最新のトピック」には少し疎く、情報に対してはワンテンポ遅れて騒ぐタイプではある。そんな私に最新の「相棒クイズ」である。きっと妻は、この日のヤフーニュースとかLINEニュースとかを見て知ったのだろう。
私が「相棒」について知っている事。
たぶん、もう20年くらいやっているTVドラマであり、水谷豊が「右京さん」という奇妙な紳士(たぶん刑事)を演じていて、その「相棒」が変わることでシーズンを積み重ねている。タイトルが「相棒」というくらいだから、バディものの刑事ドラマだろうと思われる。
本編を観たことが無いので、ストーリーや設定は全然わからないのだが、なんとなく、水谷豊の相棒はおそらくこのような流れだと思う。
寺脇
↓
ミッチー
↓
成宮
↓
反町
順番にはやや自信がないが、たぶんこんな感じだと思う。
つまり今回の問題は「反町」の次を当てるクイズである。
まったくわからない。知らない。
しかし、なにか「傾向」のようなものがあるような気もする。
「ヒントくれ。その人は、ミュージシャンとか芸人とかアスリートとかだったりする?」と私。
過去の相棒であった、ミッチーと反町はミュージシャンとしても活動していたし、「専業役者」か「兼業役者」かがわかれば、かなりたくさんの候補者が削られる。
「わかんない。その人、役者以外をやっているの観たことないかも。」と妻。
なるほど。じゃあもう一個おしえてくれ。
「ヒントもう一回。20代か、30代か、40代以上か、教えて。」と私。
「40代以上。」と妻。
私の頭の中のタレント名鑑の大多数に✕がついた。結構絞られてきている。今回の新相棒はベテラン俳優だ。しかも、芸人でもミュージシャンでもない。という事は、キャリアを積んできた名バイプレイヤーであろう。
「3人まで答えていいよ」と妻。
これはイメージだが、テーブルの中央に一枚の写真が伏せられている。新しい相棒の写真だ。それをめくって裏返せばこのクイズの答えがわかる。
私はいま、手元に20枚くらいの芸能人の写真を持っていて、それをテーブルの上に3枚まで出せる、というわけだ。
まずは1人目。
私が最初に出したのは「佐々木蔵之介」。40代俳優。条件にはあっている。
以前「ハンチョウ」とかいう刑事ドラマの主演やっていたので、そのイメージだ。過不足の無いチョイスなんじゃないかと思う。
ミッチー、成宮、反町の採用という過去実績を考えると、何やらもうちょっと「華」と「茶目っ気」のある二枚目が抜擢されそうな気もする。話題性的にもそういうタレントのほうが好ましいとも思う。その点「佐々木蔵之介」はチョイ渋めか。
「佐々木蔵之介、違います。」と妻。
外した。まあまあ、1人目からあたりはしないだろう。
2人目。徳重聡。
2000年に開催された「一億人の心をつかむ男/21世紀の石原裕次郎を探せ!オーディション」における応募者5万人の覇者だ。正直、デビュー後はあまりぱっとした主演作は無かったが、2018年に放送された「下町ロケット」で演じたクセのある工員役が素晴らしかった。私はもう一度、徳重の、あの一癖のあるお芝居を観たいなと思っていた。
一応年齢的にもあっているし、役者一筋ではあると思う。
しかし、「新しい相棒はこの人だ!」というリリースを想像すると、やはり話題性に弱いか。
「誰?違います。」と妻。
「ですよね」と私。
ちょっとひねりを加えてしまった感は否めない。
さて、どうする。
テーブルの中央には、伏せられた新相棒のカード。誰だ。誰だか見当もつかない。
私の前には、佐々木蔵之介と徳重聡の写真が並んでいる。渋いな。彼らには悪いが、あまりキャッチ―ではない。今までの相棒たちには、キャッチ―さと愛嬌のようなものがあった。しかしながら、主役の水谷豊を押し除けず、喰いあわず、ちょうどよく半歩引いた感じなのだ。
キャッチ―さがあり、ニュースリリースに耐えうるお茶の間認知度もあり、40代のバイプレイヤーである。
3人目だ。
「遠藤憲一でおねがいします。」
私は最後の切り札として、強面だが茶目っ気も兼ね備えた遠藤憲一の写真を、テーブルの中央に伏せられた新相棒の写真の隣に、スっと滑らせた。
ちょっと濃すぎるかもしれない。水谷豊ともちょっと合わない気もしてきた、2人並んだら怖そうな気もする。どうだろう。
「遠藤憲一。違います。」と妻。
「だよなだよな。俺もちょっと違うと思ったのよ。もうワンチャンス。あと一人。」と食い下がる私。
何とかして当ててみたい。
「でも考えたらわかる問題じゃないから。こういうの。」と妻。
確かにそうかもしれない。私の主観的な思い入れと勘とでしかない。諦めよう潮時だ。
「わかった。答えを頼む。誰だ?」と私。
「テラワキ。」と妻。
テラワキ?
寺脇?
え?寺脇?
「寺脇って、なに?」と私。念のため確認だ。
「寺脇だよ。また寺脇。」と妻。
「再度、寺脇?」と私。
「そうそう。再寺脇。」と妻。
もてあそばれた。妻にもてあそばれた。
どんな顔してた?俺。徳重聡の時、俺どんな顔してた?
俺がカイジみたいな顔してカードを繰り出していた時、お前はずっと「寺脇なのになー」って思っていたのか?そうなのか?
「寺脇でしたー。」と、あらためて妻。
私はこの後、スマホですぐに「新しい相棒」とググった。
トップニュースで寺脇が帰って来ると載っていた。
おかえり、寺脇。相棒見たことないから全然思い入れないけど俺観るよ。
こうなってくると楽しみだ。↓番宣。