自分だけのもの、自分だけの人間みたいなもの。ERIMO(いーあーるあいえむおー)

2023/11/09
誰だったかは忘れてしまったけど、その著名な音楽家が小さな子供の時、初めて作曲をして、自分の音楽というものが作れた時「他の誰のものでもない、この世界で自分だけのものを手に入れた!」と、とても感激した、っていうエピソードを聞いたことがある。

「この世界で自分だけのもの」って何なんだろう?

お金は違うかな?家や土地や車は?家族や恋人はどうか?愛は?顔や体は?DNAとかかな?
考えれば考えるほど「本当にそうか?」という気になってくる。ひょっとしたらそんなものは意外と無いんじゃないか?と思ったりもしてしまう。

先日、あるドキュメンタリー映画を観た。20年くらい前の作品。もちろんU-NEXTで観た。
「ERIMO」という作品で(イーアールアイエムオー)と読むらしい。
この作品は、水木しげるの等身大人形の制作を依頼された人形作家に密着したドキュメンタリーだ。

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その人形作家は「えりも」という名前の23歳の女性(2005年当時)。彼女は水木しげるの回顧展の会場に展示する、水木しげるの等身大・超リアル人形の制作を依頼される。そして、結論から言うと、めちゃくちゃそっくりな、生き人形のような水木しげるを作り上げる。超リアル。

この作品の真ん中くらいで、彼女が自分が人形を作り始めたきっかけについて語るシーンがあった。

「自分だけの人間みたいなのが欲しかったんだと思う。」

彼女は10代の頃、他人の考えていることがわからなくて、人付き合いもうまくいかなくて、他人が怖いんだけど、かといって自分ひとりだけで生きていく強さもまだない。そういう時期に人形を作りだしたのだという。自分の好きな友達にどことなく似た女性の人形だったそう。

自分だけの人間。

なんかすごいフレーズ。こんなの聞いたことない。少し怖いようで、でも切実で。だからそれゆえに強い。

「自分だけのもの」という感覚は、購入や譲渡では得られない。それで得られるのは所有権や使用権程度のものでしかないから、やっぱり結局、自分で作ったり育てたりしないと「自分だけのもの」にはならないのだと思う。

自己肯定感の低さとか、心理的安全性の乏しさとか、満たされない承認欲求とか、メンタルを脅かすいろんなファクターがあると思うけど、「自分だけのもの」を手に入れることで解決しちゃうんじゃないかと思うし、その手法として芸術っていうのがあり続けているのだとも思う。だから、楽器を弾いたり、絵を描いたり、一句読んだり、なんか作る作業って絶対やった方がいいと思う。売れる商品を作るためではなく、自分だけのものを持つための作業として。