アカメク的

2009/08/08
 「今オッパイ触ったでしょ?!」

昨晩、近所の居酒屋のカウンターで酒を呑みながら、その店自慢の
自家製チャーシューを「うむ、悪くない。」なんて言いながら食べ
ていたのだけども、後ろの座敷が楽しげに騒がしい。若い男女か。

 「今オッパイ触ったでしょ?!」

店の壁には薄型の液晶テレビモニターが掛けられ、映画のDVDなど
が無音で映像だけ流れていた。「ハリーポッター賢者の石」だった。
いやはや居酒屋のテレビも壁掛けの時代なのですな、なんて事を呟
きながら治療がようやく終わった銀色の奥歯で焼豚を噛み締める。

 「今オッパイ触ったでしょ?!」

うーん、オッパイが触られているなぁ、どんなコのオッパイがそん
なにも触られているのだろうか。そんな人気者なオッパイを持って
いる女性の声色も、キャッキャとして嫌がっている様子ではない。
土曜の深夜だ。学生達の合コンか、社会人の憂さ晴らしか?

 「今オッパイ触ったでしょ?!」

壁掛けのハリーポッターは宿敵らしき悪そうな奴に殺されそうにな
っていた。自慢の丸メガネが、ずれていた。
後ろの喧噪は勢いを増し、ゲラゲラとワイワイと盛り上がっていく。
私はチラリと見るともなくその団体客を、さりげなぁく眺めてみた。
若い年代のサラリーマン風の連中が大体5、6人で呑んでいる中に、
おそらく職場の紅一点であろう若い女がひとり混じって笑っている。
女性お笑いコンビ「北陽」の小さい方に似ていた。わりとどこにで
も居るような、リアルに庶民的な普通の女の子といった感じだ。

 「今オッパイ触ったでしょ?!」

まただ。また言ってる。私がこの店に入ってからもう何度となく耳
にしたこのフレーズ。イントネーションもヴォリュームも一貫して
変わらずに放たれるこの『今オッパイ触ったでしょ?!』。
誰かの携帯電話の着信音なのではないかと思ってしまう程に、徹底
して同じトーンで響く音。もはやあの女の乳が触られているかどう
かなんてどっちだっていい。セクシャル・ハラスメントだろうが、
合意に基づいた楽しいオッパイパーティーだろうが、そんなことは
もう私の興味の内には無くなっていた。
何度も繰り返されるメッセージは、やがて意味を剥奪されてゆく。

 「今オッパイ触ったでしょ?!」

イマオッパイサワッタデショ!イマオッパイサワッタデショ!
私も声に出して言ってみたが、まるでパプワニューギニアに暮らす
誇り高きアカメク族の長が部族の戦士達を讃えるかのような響きだ。
愛に満ちた、美しくも力強い、そんな言葉に思えた。
これははたして精霊の導きか、はたまたアルコールの戒めか。

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