イーゴン自治区

トニー

2006/01/29
「洋服を着るために生まれてきたような女性」
と聞いて、みなさんはどんな女性を思い浮かべるでしょうか? 
 『トニー滝谷』という映画のDVDをさっきまで観ていました。 

私が小説家・村上春樹さんの小説をはじめて読んだのは
二十歳をとっくに過ぎてからでした。
大学生で一人暮らしをしていた友人の部屋にあった
ちいさな本棚の中にその本はありました。
『羊をめぐる冒険・村上春樹』
黄色い背表紙の文庫本でした。
なんだかファンタジックで幼い印象を受けたのを覚えています。
羊、黄色、冒険。
子供が読むような本だろう、と思っていました。

 当時も今も、日本には「村上」という苗字の有名な小説家が
2人います。
村上春樹さんと、頭髪の毛量が多い村上龍さんです。

村上龍さんの小説は、それまで何冊も読んだ事がありました。
「限りなく透明に近いブルー」「トパーズ」「五分後の世界」など。
こちらのほうは、タイトルの印象からか"若者のうちに読むべき小説"
のような気がしたので、読んでいたのでしょう。

高価なコンピュータを買うためにアルバイトを掛け持ちしながら
お金をためるだけに生活していたある時期、
世田谷区内の図書館ならどこでも使える貸し出しカードを
私は持っていたので、ひまさえあれば読み捨てるように本を端から
借りまくっていた中の一冊に、あの日に見た
羊、黄色、冒険。の文庫本が混じっていました。
まぁいい、といった気持ちでページをめくったのが最初でした。

村上春樹の書いた小説は、変なかんじがします。
彼が語る世界は、なんだか医者のような専門科の人間が
「安静にして食後にはこのカプセルを飲みなさい。」とか、
「手術は成功しました。もう大丈夫です。」といった、
私には確かめようも、疑いようも無い事を、当然のような無表情で
ただ淡々と伝えてきます。

「彼女の耳は例えようのないほど、美しかった。」とか、
「彼女は私にとって100%の女の子だった。」とか。 
 専門科がいうのだからそうなのだろう。という具合に、
こちらとしても飲み込まざるを得ない、妙な説得力を持った言い回し。

「トニー滝谷の本当の名前は、本当にトニー滝谷だった。」

ああ、そうなのだろう。

おそらく世の中にはおびただしい数の小説があるのでしょうが、
この、村上春樹さんが綴った、
「トニー滝谷の本当の名前は、本当にトニー滝谷だった。」
という一文は、ひょっとしたらこれだけですでに"小説"なのではないかと
私には思えます。
「吾輩は猫である。名前はまだない。」
っていうのもそうだと思います。

根拠とかアリバイとか、そういったもの達から遠く離れた次元で
不意に語り出される本当の世界。
小説家というのは、ああいう一行を書ける人の事をいうんだなぁ、と思います。 
 「洋服を着るために生まれてきたような女性。」
と聞いて、みなさんはどんな女性を思い浮かべるでしょうか?
きっとそれはまぎれもなく
「洋服を着るために生まれてきたような女性。」なのでしょう。

映画「トニー滝谷」、良かったです。DVDも出てます。
しかしながら、ある程度のすべてを、具体的に存在させなければいけない
"映像"というメディアには、やはり村上春樹は難しかったんじゃないでしょうかね。
それは別に、宮沢りえさんがダメだったという事では決してなくて。


映画『トニー滝谷』★★★★☆

コメントをどうぞ。 現在4件

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イーゴンのハタノ

レン‥‥‥タルです。
買いま‥すん。

2006/02/05 (Sun) 23:03

mrmt

レンタルで?

2006/01/29 (Sun) 19:48

ハタノ

そうね。情が無いね。

2006/01/29 (Sun) 15:17

コンバット越前

パルキいいよパルキ。
なんかあの人の小説は出口が無い気がします。
色々してみたけれど、何処へも行けない、という。
人が人に相談を受けて、まぁ頑張ればなんとかなるよ、
と云う様なアドバイスをよくするじゃないですか。
あれが全く出てこない世界。まぁなんとなく~が無い気がする。

2006/01/29 (Sun) 15:08